「おいっ……」
遠くから誰かに呼ばれた気がして目を開けると 無表情なままの隼人が香南を覗き込んでいた。
どうしてこんなことになったのだろう。
もちろん自分があさはかだったからだが、ちょっと前まではとても幸せだったんだ。
だってこんなにクールな隼人が自分のことを恋人って言ってくれて……。
でもこれほど隼人が怒るって事は 自分の事を本当に恋人と思ってくれていたからじゃないか。
だったらこれも幸せなのかもしれない。
でももうきっとこれで愛想がつきて捨てられるのだろう。
それなら今、もう消えてしまいたい。
だってこんな自分のことを 顔や身体以外も欲しいと言ってくれる人なんて もうきっといないんだから。
「……隼人、殺して」
「っ!」
香南の言葉に隼人は眉間に皺を寄せた。
「なんだって?」
香南は自分から隼人の首に手をまわして 膝立ちになった。
そっと唇を合わせる。
隼人は石になったように動かない。
「隼人、好きだった。うれしかった。ありがと」
「香南?」
隼人はあきらかに様子のおかしい香南に困惑し両手を香南の頬に当てた。
「……さっきはごめん。あれはただお金が欲しかっただけだよ。隼人のくれたお金じゃなくて自分のじゃなきゃだめだったんだ。だって……」
自分のお金で何か買ってあげたかったんだ。
その言葉を呑み込んで 香南は悲しそうに目を伏せ やがて諦めた顔で隼人を見上げた。
「ううん、もういい。ねえ……殺して…」
香南は隼人に微笑みかけてまたそっ口づけた。
「おいっ、香南。しっかりしろ!なんで今俺がお前を殺さなきゃならない?」
うつろな目でにっこりと笑う香南がふっと消えてしまいそうで 隼人は焦った。
「だって、もう嫌われてしまうから。もう誰もいないから。幸せなうちに消えたい」
「なっ!」
隼人は目の前の恋人の言葉に その外見と強気な言葉からは考えられない 純で脆い魂を目の当たりにした。
「香南!しっかりしろ」
隼人は香南の両肩を揺すぶった。
香南は左肩を押さえて小さくうめいた。
「痛っ、……痛いよぉ」
見れば塞がったはずの傷口からうっすらと血がにじんでいる。
はっとして隼人が左肩から手をはずす。
香南は自分で肩を抱きながら嗚咽した。
「……もういいから、みんな俺が嫌いならもう……いいから……早く殺して」
「香南、おいっ、しっかりしろ」
香南の脳裏から 隼人の声が遠くにフェードアウトしていった。
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