「着いたぞ 降りろ」
何故か偉そうな口調で言われ 渋々車から降りる。
言い返そうとも思うのだが 自信満々なその態度につい言い返すタイミングさえ無くしてしまう。
今までじぶんでも気づかなかったのだが 自分はこういうタイプにとても弱いのかもしれないと香南は思った。
見ただけで高級とわかる住宅街にその家はあった。
広い庭に立派な洋館。
こっちだと通された部屋はリビングではなく 男の個室のようだった。
「上着を脱げ その腕見せてみろ」
「ええっ?もういいですから。ほんとに」
帰ろうかどうしようか考え逡巡しているうちに 男は香南の上着を脱がせにかかった。
「ちょ……まって 何すんだよ」
暴れた甲斐もなくあっという間にあらわにされた肩には ただぶつかっただけでは出来ようのない刃物傷は左の肩から上腕にかけて続いている。
「ほらな やっぱりまだ怪我したばっかだな。しかも何の手当もしてない」
斬られたのは3日ほど前だが ろくに消毒もしなかったせいか 傷口は塞がらず 動かせば血がにじみ出す。
痛みも引くどころか じんじんと熱を持ってきているような気さえしていた。
本当なら病院にいかなくてはと思うが 病院でこの傷のわけを どう説明すればいいのかが香南にはわからなかった。
まあいいかと放置しておいたが このままではまずいとも考え 悩んでいたところではあるが なんの関係もないこの男には手当をする義務も責任もないはずである。
「…関係ないだろっ」
香南はぎっと男を睨みつけた。
「ああ関係ないな。だがやっぱり関係あるんだ」
はぁ?何をいってるんだこいつは。
香南の怪訝な顔にもめげず男は続ける。
「お前 俺と付き合え」
男にじっと見つめられているのを感じた。
頬のライン 顎 唇 視線に晒されている自分を感じてかあっと頬が染まる。
………こいつ馬鹿だ。
ときどきこういうバカもいる。
つまみ食いの相手として気に入られたことはよくあることだ。
「たぶん 一目惚れだ。お前俺が嫌いか?」
遊ばないか?と言われたことは多々あるが 一目惚れなんて言われたのは初めてだった。
それでも男の言っている意味は 遊びでと言うことなのだろう。
「一目惚れで 遊びの相手になってほしいだけだろ」
吐き捨てるように言えば自分でも段々惨めな気分になってくる。
「……そういう遊び相手になったことがあるのか?」
「あれば 何?」
「俺は違う。遊びじゃなくて 全部心ごとおまえが欲しい」
笑える。
「俺のことなんにもしらないのにどうしてそう思うの?」
嘲るように笑いながら言えば男は眉間に皺を寄せ 真剣にその答えを自身に問うているようだった。
「考えてもわからないものはわからないな。とにかくそう思うからそうなんだ」
なんなんだよその答えは。
香南は納得できない答えにムッとした顔を見せる。
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