新学期から香南が通う学校は 名門の男子校だった。
あれから編入試験を受けて入り直したから香南の素行の悪さを知っている者はいない。
女顔でしかも男子校とくればなんだか危険な気もするが香南にはその心配はなさそうだ。
隼人が準備したのは通う学校だけではなかった。
ボディーガードとでもいうのだろうか。
村松という同級生は隼人に金で雇われ香南の身辺警護を引き受けた。
もちろん学校には内緒だ。
バイトも禁止されているこの学校で 家庭で金のいる事情があるらしい村松は 一日一万円で授業料さえ一切こちらもちという条件なら 香南の警護でも あるいはもっと嫌な仕事でも喜んで受けただろうと香南は思う。
「そろそろ時間」
ぼそっと言う村松は自分の鞄と香南の鞄を軽々と片手で持ち廊下を早足で歩く。
「ちょ……」
待ってという言葉も言えないうちに香南は駅まで松村の後を必死で追うはめになるのだ。
同じ駅で降りて 香南が駅に降りたところを見届けると鞄を返して再び電車に乗って帰って行く村松は いつも無表情きわまりない。
「はぁ〜〜あいつに疲れる」
やっとひとりになると 香南はため息をこぼした。
「あっ」
降りた駅に貼ってあったポスターに大きく笑う母を見つけ 香南は立ちすくんだ。
そっと髪で顔を隠すようにして走る。
こんな時似ていることはとても不便だ。
ポスターの中の彼女は本当の年から10以上は若く見える。
香南は自分の子ではないから数に入れないとしても 母、みそらは 妹と弟の紛れもない母である。
とても子持ちとは見えないところは 日頃の努力のたまものなのか天性の素質なのか 香南にはわからない。
ただ美しい母であることは 誇らしい。
たとえそれが 自分の事を心底嫌っている母だとしても……。
妹と弟はあまり母には似ていない。
それどころか 父にも。
外資系会社の重役である父は 数年前から外国に居を構え ほとんど日本には帰ってきていない。
それでも ちゃんと送金はされているらしく お金に困った風もないのだが。
こうして母が時々仕事をするのは まだまだ美しさで通用する自分を確認するためではないかと香南は思う。
早足で来たためにちょっとだけ息を切らして角を曲がると 隼人の車の隣に見慣れないグレーの車があった。
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