来客が帰った後 外に出ている奥田の代わりに 香南は二人分のコーヒーを淹れた。
まだデスクにいる隼人にコーヒーを出し 自分は傍らのソファにすわった。
さっきの母の話を思い出しコーヒーを持つ手が震える。
カタカタとなるソーサーに気がつき隼人が香南の手を見た。
「あ、あのね今日 ポスターが駅にあった」
「……ああ」
隼人がちぇっと舌を打つ。
「俺の母 とっても綺麗でしょ? すごく素敵だったよポスター。あんな綺麗な母に酷いことさせてるのは……俺なんだ」
「香南。さっきの話 聞いたのか?」
俯くだけで言葉が出なかった。
ただこの手に震えるカップの音が 勝手にこえたえようとしている。
「母は……母はね、俺が嫌いだけど」
「俺は……母がね、好きなんだ……だから」
「あんな親でも親は親か。殺されるほど憎まれてもおまえはあいつが好きか。バカだな」
「うん……でも好きなんだ。だって俺のお母さんだから」
隼人の胸に引き寄せられてぎゅっと抱きついた。
「だから……あの人に酷いことしないで」
無言の空間が痛い。
「ねぇ…」
「俺は何もしないさ」
動じず淡々とした口調に凍り付く。
一月近く一緒に暮らした今 隼人の行動はだいたいわかってきた。
香南に向ける視線いがいのものは 冷淡で大胆で情けの欠片もない男。
それが隼人だ。
その道……までとは行かないまでも ほぼそれに近い事をしていることも知った。
表向きは自分で興した会社の社長。
さっきの弟と言っていた進二が おそらく裏で手を回す担当なのだろう。
たぶん人一人消すことなどこの隼人には訳のないはずだ。
あの母も。
「……いや。母を殺さないで。俺は母を憎んでなんかいない。好きなんだ。いつかちゃんと俺を認めて愛してもらうのが夢なんだ。だからっ」
しばらくの沈黙の後わかったと隼人は言った。
ぎゅっと縋りつて 隼人の匂いをいっぱいに吸う。
不安な心がだんだんと静まって安らかになっていく自分を感じた。
隼人は自分をこんなにも自分を幸せにしてくれる。
幸せを感じると何故か涙が溢れて 香南は隼人の背にまわした手に力を込めた。
何もしないと約束してくれた隼人を信じよう。
香南は顔を上げ隼人に囁いた。
「隼人を 信じる」
隼人はため息混じりに頷いて 香南の髪をやさしく撫でた。
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