学校にある裏山は ゴツゴツとした岩が点在している。
低い山頂には何の神かは知らないが小さな祠があり 地元の人が供えるのか ときどきお供えがしてあった。

香南がここに来たのは二度目だった。
この学校に転入した時分に丁度 春の遠足という名ばかりのハイキングがあって その日は持ってきたお弁当をここで食べたのだ。
少し高さがあるだけなのに 街がよく見渡せて 新緑がキラキラ輝いて見えた。
笑っちゃうけどその日は 隼人が特大のおにぎりを作ってくれたのだ。

「なんだこれ。変なの」
そう言ってわらったが 泣きそうになるほどそれが心に染みて嬉しかった。
だから香南はここで食べたおにぎりの美味しさが忘れられなかった。

 

ねえ 先生 僕ね……先生が好きみたい。
うれしい。僕ねずっと誰かに好きって言ってもらいたかったんだよ。
先生みたいな素敵な人が 好きって言ってくれるなんて夢みたいなんだ。

あの日自分が妹の家庭教師に言った言葉が頭の中でまわっている。

そう……誰かがこの自分を 好きだと言って抱きしめてくれるのを ずっとずっと待っていたのだ。

あのころも今も。

あの家庭教師の言葉は嘘だった。
それでも無防備な香南に罪悪感を感じたのか それが芝居と教えてくれるときは とても苦しそうな顔をしていた。

でも僕が先生を好きだったのは本当なんだよ。
だから苦しまないで。

そう言った香南の頭を先生は抱きしめて泣いてくれた。
もうそれで充分だった。

自分には誰もいないとわかったから。

 


それでもこころのどこかでずっと待っていたのだ。
自分の運命の相手を。


そしてやっと出会えた隼人。
まだ隼人と出会えたばかりなのに もう別れなくてはならない。

それでも出会えた喜びは消えない。
隼人と出会えた事で 産まれてきてよかったと心から思える。
そして今消えても悔いはない。


最後にもう一度 逢いたかったなぁ。


香南は朦朧とした意識の中で  ぼんやりと思った。
最後に一度だけキスしたかった……なぁ……はや……と…
香南は虚ろにあけていた目をそっと閉じ 静かな寝息を立てて眠った。

…………はや……と………………おかあ……さ……ん……

 

 

 

 

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