猛スピードで走ってきた車は 病院の前で急停車した。
バタンと音をさせて 眉間に皺を寄せた隼人が降りる。
入り口で待っていた進二はこっちこっちと手を振った。

「で、どうなんだ」
不機嫌きわまりない口調に 進二は言いにくそうに容体を告げる。
「それが……今日が山らしい」

隼人はそれ以上 何も言わず進二の示す方向へ歩く。
面会謝絶の札のかかった大きな機械がたくさん詰め込まれた部屋に 香南は眠っていた。
そっと近づいてその小さな顔を見る。
真っ白な色を無くした顔色は 香南がもうあちらの世界に行きかけていることを示しているようで 隼人は息を呑んだ。
「香南」
小さな声でささやく。
反応はない。
香南の身体には 点滴やら呼吸器やらの管がたくさん つながれ ぎゅっと抱きしめてやるにもままならない。もどかしい思いで隼人は香南の冷たい手を握った。
「それもおれにとっては 浮気と一緒だと言っただろうが。守らなかったお前を許さないぞ香南」
握った手にぽたりと雫が落ちて 隼人は自分が泣いていることをしった。

香南の手を握ったままで 隼人は心で香南に話しかける。

バカだおまえは。
おまえは俺がどれだけおまえに惚れているか知らないだろう?
おまえが死んだら 俺も死んだも同然だ。
いつまでかかったと思うんだ?
おまえに逢うまで。
俺はずっと一人だったんだ。
ずっと探していたんだ 俺だけを見て 俺だけを愛す奴を。
俺のバックに在る物と関係なく俺を必要とする者。
頼りなげなのに勝ち気で 美しくて脆いおまえを 俺がどれほど愛していたかわかるか?
わかっていたらこんなことしないよな。
わからせることができなかったのは俺の所為だな。
目が覚めたらこんな事をしたことを その身体に嫌と言うほど後悔させてやるから覚悟しろよ。

香南。聞えるか?
許さないからな。
俺を置いて逝くな。


逝かないでくれ。


握った手にぽたぽたと涙が落ちる。

「すき……隼人が…すき」
目を閉じると 縋るような目でぎゅっとしがみついてきた香南の顔が浮かぶ。

心電図の規則的に鳴る音が 部屋に響いていた。

 

 

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