ピッピッという機械の音が規則的に響いている。
香南はそっと目を開けた。
頭上に白く見えるのは どうやら天井らしい。
点滴らしいパックから伸びた管は 自分につながっているようだった。
手を少しあげてみようと試みたが 自分の手なのに重くて上がらない。
フゥと息を吐き出した。
なかなか焦点の合わない瞳に 誰かの人影が映る
固唾をのんで動き出した香南を見つめる みそらと隼人だ。
夢……だろうか。
二人に抱き締められて まだぼおっとしたままの香南は思う。
夢でも……うれしい。
香南が退院したのは それから10日後のことだった。
退院しておよそ一月が経った土曜日の朝。
「行ってきます」
慌ただしく長い廊下を走ってきた香南は 先に玄関に見送りのため待っていた隼人に大きな声で言った。
今もう既に 待ち合わせの時間なのだ。
どう車に急いで貰っても 30分程は軽く遅刻してしまう。
まったくこの遅刻癖には自分でも嫌になる。
慌てて靴を履く香南は 隼人に顎をあげられてその唇を奪われた。
「んっ……や…」
もがきながらもだんだんと感じて目が潤んでくる。
「すっぽかしちまえよ」
低い声で耳元に囁かれ 香南は全身を震わせる。
それでもすっかり息が上がった身体を はぁはぁさせながらきっぱり首を振った。
「母が待ってるんだよ」
隼人は うれしそうに恥じらいながら言う香南の髪を撫でた。
退院する日に 土曜日の昼だけは 実家で家族ととるとあのみそらと約束したのだ。
「仕方ないな。じゃあ気をつけて」
「うん」
甘く見つめあう二人に 来客のインターフォンが鳴る。
「村松ですが 今着きました」
香南が なんで?と怒った顔を見せる。
「ああ、俺がついているように頼んだんだ」
呆れたように香南はため息をついた。
「運転手つきの車で行って どこでどう何かが起きるっていうんだよ」
「そう わからないからな。もしかして車から降りて 家に入る前に 誰かとぶつかって恋に落ちるかもしれないからな。見張っておかないと心配だろう。だから念には念を入れるまでだ」
偉そうに言う隼人に 香南は怒りどころか面白くさえなってきて笑い出す。
自分をそこまで心配してくれるということは うれしい。
まあ迷惑でもあるのだが それくらいは目をつむるしかない。
「じゃあ村松。行こう」
相変らず無表情な村松と共に香南は笑顔でドアを開けた。
「行って来ます!」
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