「じゃあ、よく考えて納得したら明日俺の家に来い」

無表情のままであの男は帰って行ったが 傷の事は何も聞いてこなかった。

「何が一目惚れだよ。ばっかじゃないの?」

香南はひとり呟いたが 惚れたと言われて悪い気がしないのは事実だ。
まあ、男同士であるから多少問題はあるかもしれないが 香南はそういうことには昔からあまりこだわりはない。

「一目惚れ……か」
少し顔がにやける。
あ、でもそれって結局顔だけってことじゃん。
シャワールームの鏡に自分の顔をうつしてみる。

母親とそっくりな顔。

俺のことが一番嫌いな母親と…そっくりな……自分の顔。

その顔がすきなあの男。
どうせいつも俺の顔ととやりたがる奴らと変わりはないとは思う。


母親の事を考えると傷が痛んだ。
肩には湯をかけないように注意してそっと身体を流す。
この顔が好きなだけならいっそ母親を紹介してやりたいくらいだ。
香南は シャワーをキュッととめて鏡に手を当てた。

……バカにして。あんな男 後悔させてやる。

頭の奥の方で危険かもしれないと警鐘がなるが いいさ放っておこう。

急に 明日で水道も電気も止められてしまう事を思いだした。
 バイトがダメになった以上 香南に選択肢は思いつかない。
どっちみちやろうとしてたバイトはハッキリ言えば身体を売る仕事だったんだから 同じことだ。
そう自分に納得して香南は眠った。

昨日は傷の痛みに眠れなかったが 今日は横になるとだんだんと瞼が重くなってくる。
今日のクスリが効いているのかもしれない。

あの男……いい奴なのかもしれない。


考えてみれば惚れたなんて言われたことがあっただろうか。
小さい頃から求め続けた母親の愛情は 手を伸ばす度に斬りつけられるようだった。

欲しい物は手に入らない。
昔からずうっと。

 

中学に入り抱かれる事を覚えた。
自分の全てが求められているようで初めはうれしかった。
そしてそれが母親のしくんだ罠だとわかった時 心と身体は別のものなのだと思い知らされたのだ。
レイプされたことも数々ある。
そのうしろに誰がいるのかもうすうす気づいてはいたが 香南には認めたくない事実だった。
だからそんなことくらいで傷つかないように 自分から誰かを誘ったって遊んだりもした。
そうすればレイプの一つや二つどうってことないと思えるような気がしたからだ。
でも、なんどか人を変えて経験を積むうち 心の伴わない関係は淋しいばかりでどんどん乾いていく自分を感じた。

みんなこの顔の俺とやりたかっただけ。
俺の事を心から愛した奴なんかいなかった。
みんなきっと自分が好きだっただけだ。

だから惚れたなんて言われても舞い上がってはいけない。

後で傷つくだけなんだ。

なのに……愚かな自分がは心の何処かでうれしがっている。
香南は滑稽な自分を自嘲した。


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