「やっと 素直になる気になったか?思った通りのいい声だ。」
隼人の手が胸をやっと滑り降りて その下に行こうとしたそのとき 玄関の呼び鈴が鳴った。
隼人は舌打ちして立ち上がった。
「えっ?」
ありえない。
ここで来客ってなんだよ。
「続きは後でな」
隼人は優しい顔で香南を見ながら 部屋を出て行った。
……!こんなのって。
そりゃあ別にやりたい訳じゃないけど、その気になってから放り出すってどうよ!
恋人ってそんなんか?
俺のこと……恋人って言ったじゃないか。
……なのに。
香南はベットにある枕に渾身の力でパンチを喰らわせた。
「なんだよっ、ばかっ!」
薄いベージュの毛布にくるまったまま香南はいつのまにか眠っていた。
カチャリという金属音に気がつき壁の時計を確認する。
あれからもう一時間たったらしい。
枕元にあった枕は香南のパンチを浴びすぎて ベットの下にお隠れになったらしかった。おまけにあのままだから 当然身体の一部にあのバスローブが掛かってるだけの ほとんど全裸で この毛布をめくったら 「待ってました。続きをどうぞ」って感じにも見える。一気に目が覚め 部屋の中を見る。
さっきの音……その金属の音は部屋のドアの開いた音だったらしい。
隼人がそこにいた。
「ただいま。そのままで待ってたんだな。……いい子だ」
「ちがっ…」
隼人はさっとベットに上がると その手でぎゅっと香南の顎を上げ そっと口づけてきた。
反論しようと開いた口からすっと差し込まれた舌に 瞬時に翻弄されてしまう。
「ううっ…はぁ…」
濃厚なキスに何も考えられなくなって、やっと唇が離れた。
互いの口の端から唾液が糸を引き、なんとも隠微な気分になる。
俺は単なる恋人役。
こいつの……隼人の…言うことなんか信じたら きっといつか泣くだけ。
そう何度も思っても 心の何処かで 信じたいと叫んでいる自分を感じる。
確認……確認しなきゃ。
よせ。
そんなこと聞いたって誰だって都合のいい嘘しか言わないさ。
知ってるだろ?
それが睦言じゃないか。
でも、聞きたいんだ。
それにもしかしたらほんとに遊びじゃないかもしれない。
じゃなかったら俺の借金全部なんて返すわけない。
「何を考えてるんだ?俺とこんな事しながら他の事を考えるなんて ずいぶんな余裕だな。何考えてた?言えよ」
少しいらついた隼人の声に 香南はビクッと身体を震わせる。
いっそ 聞こう。
いや待て。
そんなのアホだぞ みっともないだけだ。
……でも
「俺のこと……遊びじゃないの?」
ぐるぐる考えてた脳より 口が早かった。
あーーー言ってしまった。
自分はは間抜けだ。
バカだ。
そんなこと聞かれて、これからって時に本当の事言う奴がいるか?
「ぷっ」
隼人は急に吹き出した。
「何だよ 笑うなよ。人が本気で聞いてるのに」
「悪い。や、もう、はははっ、だってかわいいな おまえ」
「かわいい言うな!」
俯いた香南の頭を 隼人はゆっくりと優しく撫でた。
しばらくそうされているうちになんだか香南は泣きそうな気分になって そっと隼人の顔を見た。
「ごめん。笑って。言っただろ……お前に一目惚れしたって。恋人としてここに住めって」
温かく真面目な目だった。
香南の目からどうしたのか 次々と涙が溢れてきた。
隼人はその涙を唇でそっと吸った。
顔中にキスされてなんだか胸がいっぱいになる。
……信じられる。きっと。
いいや、うそでもいい。
今は信じていたい。
このまま抱かれたい。
そう思った。
でもそんなことは言えない。
香南は自分からそっと唇を合わせた。
.