開け放した窓から心地よい風が入ってくる。
この意味もなく広い庭のある大邸宅の窓は 隣家からも道路からも驚くほどの距離がある。
人から覗かれる心配も少ないから 香南はカーテンをしない。
白いレースのカーテンがゆらゆら揺れるのは好きでないのだ。
生まれて初めて好きだと思った男に抱かれたのは レースのカーテンが揺れる自分の部屋だったから。
昔の記憶のせいかゆらゆら揺れるカーテンは 香南を何とも言えない不安な気持ちにさせる。
だから思いっきりカーテンを開けて空を独り占めする。
「はぁ〜〜〜」
大きな声を出して伸びをしても 今は誰もいないから気兼ねがない。
時計は2時。
実力テストのあった今日は いつもより帰りが早かった。
試験勉強だって少しはした。
まあ、やるだけやったと腹をくくって この際結果は気にしない。
素直にこの開放感を喜びたい。
しかも明日は土曜日だ。
奇妙ないきさつからここで暮らしはじめて もう一週間が経とうとしている。
香南は あれから隼人との約束どうりに毎日学校にかよっている。
何にもしらないままに隼人と暮らしはじめたが 今でもほとんど何もわかってはいない。
それでも香南が隼人と暮らしているのは 経済的な理由ももちろんあるが なにより隼人の自分に対する気持ちを信じているからだ。
あえて香南は隼人の知らない部分を知ろうとはしなかった。
そういうのはきっとおいおいわかってくるものだし 一つ一つ発見していった方が楽しめるとも思う。
今、わかっているのは 隼人は会社を幾つも経営していてそのため非常に多忙であること。
もともと資産のある家に生まれたらしく この大邸宅には小さい頃から住んでいるということ。
この家には使用人の老人……いや、奥田さんが住み込みで働いているが 普段はこの広い庭の離れにいて 掃除や食事の用意や 来客の接待の時だけこっちにくること。
この奥田さんは 初めは香南のことをどう扱っていいのか困惑しているようだったが、この頃はごく普通に接してくれるようになった。
まあ、自分のボスがいきなり男の恋人を連れてきたら 誰だってひくと香南だって思う。
だから今 普通に接してくれるのがありがたい。
「香南様。今日はお早いですね」
今も香南の帰宅に気がついて 奥田は慌てて離れからやって来たらしかった。
「あ、奥田さん。 今日ね、実力テストがあって 早く終ったんだ」
「そうでしたか。それはちょうどよかった」
「えっ?ちょうどいいって何?」
奥田はキッチンから冷たいお茶を持ってきて香南の前にすっと出しながら ニコニコと笑っている。
「実は明日 隼人様の誕生日なんですよ。香南様はご存じでしたか?」
知らなかった。誕生日くらい聞いておけばよかった。
「知らなかったよ」
恋人ってったら やっぱ誕生日だよな。
香南は自分が隼人の誕生日さえ知らなかった事に自分で呆れた。
隼人は知っているだろうか? 自分の誕生日を。
そういえば以前香南のことを調べたと言っていた。
ということは知っていると思った方が良さそうだ。
まだまだ自分の誕生日は先の話しなので 今知ってても知らなくても何の問題もない。
でも、明日となると……やっぱり問題は大ありだ。
「ちょっと、暗くならないでください香南様。私が言いたいのは今日早く帰られたんならこれからでも充分明日のプレゼントが用意できるということですなのですが」
「そうだよ!これから探してくるよ。」
香南は奥田の入れたお茶をぐいっと飲み干し 自分の部屋に戻って慌てて着替えた。
知らなかったけど 明日に間に合えばOKだ。
あ、でもお金はどうしたらいい?極貧の香南の財布には2000円しか入っていない。
まあいいや。向こうで考えよう。香南はあわてて玄関を飛び出した。
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