どうしてか急にいつもと違う事をしてみたくなるときがある。
降りはじめた雨に鞄から折りたたみ傘を出す友貴の隣では 短いスカートの女子高生が人生が面白くて仕方ないような笑い声を上げていた。
月曜 16時 下校途中の駅で途中下車したことに 何も意味はない。
ただ何か違うことをしてみたかっただけなのだ。
交差点で電子音の「とうりゃんせ」が鳴っている。
歩き始めた友貴は ふと前のスクランブル交差点で足を押えて屈み込んでいる男に気がついた。
普段なら声を掛けようとも思わないのだが どういう気まぐれか自分でもわからないままに声を掛けていた。
「足 痛いの?」
敬語とか丁寧語が苦手な友貴は 誰にでもタメ口なので友達に「タメ口友貴」とからかわれることがある。
いきなりタメ口で話しかけられた男は 瞠目しながらも頷いた。
歩き出そうとするとき いきなり変な着地をし足首を挫いてしまうことは 誰にでも一度は経験が在るに違いない。
男は情けなさそうにその足を庇いながら立ち上がった。
「肩 貸すよ」
なんとか交差点を抜け とりあえずすぐそこにあった喫茶店に入った。
お互いがテーブルを挟んで席に着くと 男は交差点の真ん中で立ち往生しなくても済んだ安堵でホットしたようで うれしそうに笑った。
友貴はみるとはなしに 目の前の男を観察する。
20代の真ん中辺りと言ったところだろうか。
長身と言われる友貴より 少しだけ身長が高かった。
肩を貸したときに ふっと柑橘系のコロンの香りがした。
胸がドキリとした。
「名前 教えて」
男はためらいがちに 友貴を見た。
名前とメルアドを交換し 男は店からタクシーに乗って自宅に帰った。
それが友貴と一成の出会いだった。
もう一年も経つ。
「あっ……んん……」
胸を反らした友貴の腰を 一成はぎゅっと掴んで更に突いた。
細く糸を引くような声をあげて友貴がいったのと同時に 一成は友貴の中に熱いほとばしりを放つ。
ドクドクと脈打ちほとばしるソレは 友貴の心までも満たしていく。
ぎゅっと肩を掴んだ手に そっと一成は唇を当てた。
「綺麗だ。友」
答えずにふっと微笑んだままで 友貴はそのまま眠りにおちる。
付合いはじめた頃に 土曜日の朝は一緒に過ごすという約束をした。
それは一度も破られたこともなく こうして毎週金曜の夜は 友貴のアパートに一成が泊まりに来る。
どこかの会社の役員だということは ぽつりぽつりと話す一成の話でわかったが 細かいことは何もしらないまま今に至る。
それでも抱き合う瞬間は 一成の熱い想いを感じ 友貴は幸せを感じた。
それで十分だと思っていた。
「ところで友貴はどこの大学受けるの?」
ようやく目が覚めた友貴の横で 一成は煙草を吸いながら空いた手で友貴の髪を撫でた。
「う〜ん ダメかもしんないけど一応K大かなぁ」
「ほほぉ〜 それは楽しくなりそうだ」
K大だと 何がどうたのしいというのか 友貴はさっぱり意味がわからないまま頷く。
「まあね」
その意味がわかったのは そのK大に受かってからだった。
K大の経済学部。入学式に行って初めて受かったことを実感する 。
一緒に受けた顔見知りの5人から 合格したのは 友貴と前島二人だけだった。
前島はもろ体育会系の男で 単純で根はいい奴だと思う。
だが世話焼きで ときどきその世話が迷惑にさえ思える時もある。
「おい友貴 実はさぁ俺すっごい噂聞いたんだけど」
入学したばかりでどうしてそんな情報を仕入れられるのかが不思議だが 前島は得意になって話した。
「ここの部屋の教授って 超がつくほど頑固で意地の悪い奴なんだってさ。なかなか単位もくれないらしいぜ。紫藤一成とか言うらしいけど」
ここと前島が指さした部屋には 紫藤教授というプレートが掛けられていた。
一成……まさかな。
友貴はその名に あの一成の顔をとっさに重ねたが まさかと首を振って自分で否定した。
通り過ぎようとしたそのとき その部屋のドアが開き いつも見知った顔が現れた。
「一成……」
呆然と立ちつくす僕に 一成はやあと片手を上げる。
「友貴 おまえ知り合いなの?」
「そう 友貴は俺のいとこなんだよ。さぁ今日の友貴は車で帰るから 悪いけど君は一人で帰ってくれ」
一成はそういうと 友貴を部屋に引きこんだ。
「どういうことなの?」
返事の代わりに唇が重なって 深いキスになった。
「んっ……ふうぅん……んんっ」
「ね、楽しくなったでしょ?」
一成は 友貴の質問など物ともせずにシャツのボタンを外しにかかる。
「やだ……ここ学校だろ?」
「そ、だからいいんでしょう?」